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瀬戸内海の「島の水と空気」が育んだ美しい洋らんたち

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向島洋ランセンター/WesternOrchid


向島洋ランセンター/WesternOrchid

一人の農業青年の夢


向島洋ランセンター/WesternOrchid
尾道の中心市街地の対岸にある向島は、潮の干満により東西に曲線を描いて流れる幅300mの海(尾道水道)に隔てられた島である。向島洋らんセンターは、この島の中にあって、瀬戸内海国立公園の素晴らしい眺望を楽しめる高見山(標高283m)の北側の山麓に位置する。
向島洋らんセンターの実現には、当時の洋らん生産者組合の代表理事をしていた林原 透さんの功績が実に大きい。発端はNHKとJAが主催する「日本農業賞」で、向島洋らん生産者組合が中国四国代表としてエントリーされ、農林水産省中四国農政局局長や竹下虎之助広島県知事との面談があった。その際、林原さんは「農業の生産者である我々が農産物の販売価格を決める」仕組みを実現したいという持論を展開、それに応えた竹下県知事のアドバイス「それならバイオをやったら」が活動の方向を決定づけたという。
1984年林原さんは、向島洋ランセンター建設計画を農林水産省に働きかけ理解を得たが、地元の御調郡向島町や町議会の足並みが揃わず、理解が得らない。それでも彼は諦めず、必要性を説い続けた。向島洋ランセンター/WesternOrchid
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二人の尾道出身者のボランティア

獲得した農林水産省の予算の期限切れ間際になって、やっと向島町はセンター建設計画の実現に向けて動き始めた。建設計画から実に10年の歳月が流れ、その間、町長は5名も変わったという。紆余曲折の末、向島洋ランセンターは1995年に開園した。

向島洋らんセンターは、当初の計画では、芝生広場と栽培ハウスの行政的なハードの建設費だけが計上された予算額であった。そのため、通常であれば、これといった特徴のない洋らんセンターの栽培ハウスと芝生広場しか実現できない。なぜ、多目的展示棟を建設できたのか、素朴な疑問が残っていた。その答えがようやくわかってきたのだ。その真相はこうだ。
建築家の岡河 貢とランドスケープ アーキテクトの戸田芳樹というお二人の尾道出身者の全面的な協力を得て、当初予算の枠内で10棟の栽培ハウスと芝生広場、そして多目的展示棟も実現させる知恵を出した。まず、お二人はボランティア精神でこの事業に参加された。そして特に多目的展示棟では予算を抑え、約34,900uの敷地に総事業費11億7,000万円という低コストで実現し、以後の若者たちの音楽をはじめとした文化活動の拠点となった。また自然の中に解き放たれ、心を和ませる開放感のある芝生広場では、さまざまなイベントが開催され、週末の親子連れの憩いの場となっている。
この多目的展示棟の平面は、一見グランドピアノの形状を連想させる。そのため、当初から建築家がグランドピアノをイメージして設計したという説が流布されているようだが、実はそうではない。
建築家・岡河 貢が出した知恵とは、建設費を節約するために、杭工事をしなくて済むように、建物の敷地を地盤の固い斜面の切り土部分(盛り土は崩れる可能性もあるため)としたことで、尾根の等高線の形がそのまま平面の形になっているというものだ。結果的に、この地のもつグランドピアノのような文化的形状を引き出し、単なる洋らんの生産拠点というだけでなく、向島の文化拠点としても機能させたいという想いが、必然的に結実したのだろう。
向島洋ランセンター/WesternOrchid

向島洋ランセンターの活動

この施設は、開園当初より「洋らん」に魅せられた仲間たちが組織した農事組合法人オーキッド向島が受託運営し洋らんの生産を行ってきた。また一見ピアノ型をした展示棟は、洋らんに囲まれたコンサート会場(2台のグランドピアノを常設)や多目的ホールとなり、音楽家や聴衆に愛され、尾道の文化情報発信拠点の一つとして、多くの市民に認知されていた。また芝生広場は、豊かな自然に囲まれた親子共通の安らぎの空間となり、野外コンサートの会場ともなっている。向島洋ランセンター/WesternOrchid

すべての蘭(オーキッド)の原種は、イギリスの首都ロンドン南西部のキューにある王立植物園・キューガーデン(Royal Botanic Gardens, Kew)に登録されており、世界に25,000種類あるという。とはいっても、発見されていない蘭は地球上にはまだまだあるようで、掛け合わせた種類を入れると無限大に近い数字になる。向島洋ランセンター/WesternOrchid

2009年の現在、生産効率の向上をめざし、台湾、中華人民共和国、インドネシアより3万株から5万株の苗を輸入し、リレー栽培を行ない、ハウスで開花させ出荷している。また同センターでは、訪れる人々の憩いの場づくりをと、新たにカレー屋「PACU PACU」も併設、胡蝶蘭、デンファレ、シンビジウムなどの洋らんたちに瀬戸内海のおだやかな気候と向島の水と空気、そして細やかな愛情を注ぎながら、年中美しい花を咲かせている。
向島洋らんセンタ−では、展示棟に30〜40種類の蘭が展示され、ハウスには約400種類の蘭を栽培し、訪れる人々に公開している。そして、このセンタ−を支えているのがバイオテクノロジ−による胡蝶ラン、デンファレ、カトレア、シンビジウム、オンシジウムなどの苗の栽培だ。
最近では、環境保全にも取り組み、春蘭、風蘭、ネジバナ、サギソウなどの原種をバイオで育て、向島高見山の自生地にもどす運動を展開している。そのため、一般の人がバイオに挑戦できるフラスコ苗の洋らん栽培の通信販売も行なっている。(2009年8月)
2010年、尾道市は、財政上の理由から、当施設を文化施設としての評価をせず、農政の仕分け対象となり、市の助成金が打ち切られた。その結果、(農)オーキッド向島は、新たに指定管理者となって厳しいスタートを切ることとなった。向島洋ランセンター/WesternOrchid
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厳しい経済環境を乗り越えて


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向島洋ランセンターは、実質的には、尾道市民、特に多くの若者たちに文化施設としても認知されていたが、行政の経済的支援が打ち切られ、文化活動を持続することはなかなか困難である。指定管理者である農業法人オーキッド向島は、株式会社オーキッド向島として新たにスタートした。
(株)オーキッド向島の経営は、代表理事・林原 透さんと息子さんで代表理事・社長の林原 啓(アキラ)さんの二人体制とした。また生産を効率化するため、花の種類を胡蝶蘭に絞り、その他の洋ランは株主でもある洋ラン生産者が様々な種類の花をセンターに持ち寄り、販売している。
併設の芝生広場に面したカレー屋PACUPACUには、シェフの江頭さんの趣味を生かして、淡水魚や昆虫が飼育され、高見山を対象エリアとした野鳥・花・石などの愛好家が集まり、子供たちと大人がちの学び遊ぶ「広場]」ともなっている。(2020年8月28日)

向島洋ランセンターでかつて栽培された花たち



これらの花はその一部です。

尾道市向島町3090-1 TEL/FAX:0848-44-8808
開園時間 9:00〜17:00 (展示棟入館は16:30まで)
・休園日 毎週火曜日(火曜日が祝祭日の場合は営業で翌水曜日がお休み)
・年末年始休園
P(無料):駐車場55台 観光バス駐車場 数台
http://www.urban.ne.jp/home/orchids/index.html
  • 向島洋ランセンター/WesternOrchid
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